午前5時、寝坊しないか心配した秘書に起こしてもらって、起床。
屋根をたたく音がする。
永井旅館の外は豪雨。
恒例の「白山麓の情報誌 自然派マガジン 山女主催 はせ浩と登ろう白山登山会」
17回目にしていよいよ中止か?
布団に横たわり、朝のお天気ニュースを見ながら、思案。
心配した石原編集長が、ふすまの戸をあけて部屋に相談にやってくる。
「はせさん、どうしますか?昼ごろまでは雨だそうですよ。海から流れてくる雲も厚いようです。初心者も多いことですし・・・」と、言いかける編集長に、
「いきなり中止もないでしょうし、じゃあ、永井旅館で午前9時まで待って、その時点で判断しましょう!」と、出発時間を一時間遅らせて判断することとする。
山の天気は変わりやすいからね。
そうと決まれば、さっそく永井旅館名物の天然温泉につかり、世俗の垢を洗い落とさねば。
禊の気分。
そんな、橋下市長みたいな悪いことをしているつもりはないんだけど、でも、知らず知らずのうちに他人を傷つけていることはあるはず。
自分は良かれと思っていても、相手には伝わらなかったり、そう受け止めていただけないことはごまんとある。
それが世の中。
政治の世界においてもしかり、家庭内においてもしかり、ともだち関係でも恋愛関係でも、そう。
だからこそ、日々反省。
日ごろの自らのふるまいを反省しながら、一歩一歩頂上を目指そう。
いつものように自分を追い込んで、そして今年も霊峰白山の霊気を受けとめてきたい。
そんな思いで朝ぶろに入り、正座をして、朝ご飯。
おかずは何でもおいしいのだけど、とりわけ白峰の特大油揚げは美味しい。
山の恵みに、感謝。
8時近く、バス停前の雨も小降りになってきた。
「よし、行こう!」と、号令をかけると、
「なに言ってんですか、9時まで待ってようって、さっき、そう言ってたじゃないですか!」と、石原編集長。
「そうだっけ?でも俺、せっかちだから・・・」と言い訳。
「・・・わかってましたけどね、やっぱし!」と、いうわけで、同行の皆さんも、馳浩のせっかちぶりは先刻ご承知のようで、苦笑いしながら、目の前の市ノ瀬バスセンターへ。
片道400円のバスチケットを買い、小雨の中を、別当出合まで15分。
バスがつづら折りの坂道をまがるたんびに、世俗から解放される感じ。
うきうき。
ところが、別当出合で待ちぼうけ。
なかなか雨脚が弱まらず、むしろ、土砂降り。
金沢にいる秘書に、パソコンで白山の今日のお天気をしらべてもらうと、
「雨、くもり、霧、のち雷雨、かな?」って、いったいどっちなんだよ!
「わかんないですよ、金沢にいるんですから。ちなみに、金沢は蒸し暑いですよ!」って、金沢のお天気聞いてもしょうがないでしょうに。
わざわざ別当出合までお見送りに来てくださった、石川県山岳協会の村田信親会長ご夫妻も、
「どっちや?」って、心配が深まる。
ん〜〜〜、どうしよう!
しかし、ここまで来て、だらだらと時間を無駄にはつぶせない。
「ほな、こうしましょう。室道に遅くとも17時までに到着することを考えれば、ここは11時までには出発しなければなりません。いましばらく待ちましょう。それでもこの土砂降りなら、帰りましょう!」と、判断材料をお示しする。
少々の雨は覚悟してやってきた登山会の皆さん。
中には、昨夜の10時に横須賀をバイクで出て、9時間もかけて白峰村までやってきた大槻君もいる。
もうちょっと粘ってみよう。
・・・そしたら、霊峰白山の神様は、私たちを見捨ててはいなかった。
10時前には、小降りとなり、空も明るくなってきた。
別当出合の職員さんや、白山の治山事業や道案内や登山道整備をしている建設会社の職人さんが、
「これならいけるんじゃない?」と、ゴーサインを示してくださり、登山決定。
お手洗いを済ませ、ストレッチを丁寧にし、記念撮影をして、いざ出陣。
吊り橋を揺らしてわたりながら、いよいよ下界とはおさらば。
「登山道は、鉄砲水じゃない?」と心配していたら、何のことはない、新しい石積みの登山道が整備されていて、快適に登ることがことができた。
最初の休憩所である中飯場まで、誰一人の落伍者も無く、全21名、ぶじに小一時間ほどで到着。
初登山の律子おばちゃんも、顔を真っ赤にしながらがんばっている。
こりゃいい。
本日、道案内と荷物運びで同行してくださった3名の歩荷(ぼっか)さんが、この登山道を整備したそうで、
「いい仕事するじゃんかよ、ありがとう!」と、みなでお礼を申し上げる。
その歩荷さん、なんと裸足にクロックスの黄色いサンダルで登山。
あまりにもポップすぎる。
ワイルドだぜぇ♪
中飯場から甚ノ助休憩所までには、さすがに初心者もいる21名のチームはばらける。
高齢者の皆様は歩荷さんにお任せし、若い衆は、声を掛け合いながら、マイペースで登ることにする。
いつもならば、甚ノ助休憩所でおにぎりを食べ、カップ焼酎を飲むところ。
しかし、今年は、我慢。
「室道に行ってから、お昼ご飯食べようよ!」と、ともに先頭集団を行く百坂町壮年会精鋭のメンバーに声をかける。
しかし、この無理が、あとでたたってしまうことになった。
エコーラインの分かれ道で、既に虫の息となった出村さんと大平さん。
どうも足がつってきたみたいだ。
「無理しないように、マイペースでね!」と、気遣いながらも、森下さんと私の先頭集団はとっとと前へ。
そのとき、
「お久しぶりです、馳せんせい、吉岡です!」と、礼儀正しく声をかけてくるのは、おお、吉岡英一郎君じゃないか!
懐かしい。
俺が星稜高校の教員となって、最初に国語の授業を担当した、当時テニス部キャプテンだった吉岡君。
全然、変わらない、わかわかしい。
「お〜〜、吉岡か、久しぶり、どうしたんだよ!」
「会社の皆さんと日帰り登山です。せんせいこそどうして?」
「俺は泊まりだけど、毎年恒例の夏山登山さ。石川県の国会議員なら、年に一度は白山に登らなきゃいけないだろう!」と、お互いに近況報告しながら、再会を懐かしむ。
うれしいなぁ、教え子がこんなに立派になってくれて。
いろんな場面でいろんな教え子に会う。
いろんな社会的立場になっていたり、働く主婦になっていたり、お母さんになっていたりする。
でも、いつまでも「先生!」と言ってくれるのは教え子だけだ。
そんな信頼を裏切らないように、これからもがんばらなきゃと、気合回復。
足取りも軽く、黒ぼこ岩を目指す。
急こう配だけど、汗を絞って一歩ずつ。
途中、白山霊水「延命水」をコップに一口いただく。
んまい。
高山植物も雨に鮮やかに可憐に映えている。
登山は、本当に素晴らしい。
・・・でも、あとで聞いたところによると、出村さんは、この延命水のあたりで、両足がけいれんし、大騒動だったようだ。
・・・でも、それでも気力だけで室道まで登ってくるんだから大したもんだ。
(・・・でも、来年は、無理せずに、ちゃんと甚ノ助休憩所で休みましょうね)
そうとは知らず、先頭集団は、休憩も取らず、最後の心臓破りの丘も難なくクリアし、14時16分、室道到着。
出発したのが午前10時ちょうどだったから、ふむ、4時間16分か。
ちょっと、早いペースだったかな。
でも、まぁ、いいや。
気分爽快。
さっそく、登山マニアの森下さんが、室道広場で荷物を解き、お湯を沸かして、カップラーメンを食べさせてくれる。
お酒は、福光屋のパック吟醸酒。
これがまた、最高!
つまみは、さんまのかば焼き缶詰。
石原編集長が登ってこないと、部屋には入れないので、小一時間ほど、こうやって室道広場で宴会。
「おい、しゅうと君、生ビール買ってこい!」と、お金を渡して、最年少のしゅうと君をパシリに使い、3人で、冷えた室道のキリンビールで乾杯。
これがまた、たまらないくらい美味しい。
福光屋のお酒に、室道生ビール。
至極の幸せ。
年に一度の最高の贅沢、かもしれない。
しっかり酔っぱらったところで、あとから追いついたおばちゃんたちと一緒に、白山奥宮神社にお参り。
顔見知りの権禰宜さんに、初穂料をお渡しし、お参りさせていただく。
国家安泰を願い、選挙勝利を誓い、おりんさんの高校受験をお祈りする。
静かに両手を合わせる。
やっぱり、俺は、日本人だなぁ、と、しみじみそう思う。
山の神様にお参りし、本当に、心が洗われた。
気分爽快。
明日からの活力と、みなぎる気魄を得た。
感謝。
さて、それでは、呑みすぎたことだし、売店にオレンジジュースでも買いに行くか、とふと見ると、ん?
売店に、すっぴんだけど、どこかで見たことのあるお嬢さんと目が合う。
おお。
北國バンケットの新谷さんだ。
いつも、パーティーの時などにお世話になっているので、顔見知り。
「びっくり。どうしたの?」
「夏場はバンケットも暇だから、紹介してもらって山のアルバイトに来たんですよ!」
・・・すっぴんだから言うわけじゃないけど、女子高生のアルバイトかと思っちゃったよ、新谷さん。
生き生きと働いている。
笑顔も素敵だ。
頑張ってください。
晩ごはんに、母ちゃんが福光のお土産に買ってきた、ドジョウのかば焼きをいただく。
抜群に、美味い。
感謝。
それにしても、パーマをかけた母ちゃんは、俺にそっくりだ。
俺が母ちゃんにそっくりなのか?
(・・・そろそろパーマは、やめておこうと、心に誓う白山の夜なのであった。)
20時、消灯。
バタンキュー。(死語)
のはずが、22時半過ぎに、もそもそと起きだして、星空を見上げる。。
満天の天の川。
流れ星が、一つ、二つ、三つ。
口あんぐりと、夜空を見上げる。
これが本当の、星空。
感謝。