『黒幕』 二つの世界に身を置く馳浩が語る 政治・プロレス、そして生きる哲学
あとがき
武藤敬司、小島聡、ケンドー・カシンの三レスラーが新日本プロレスとの契約を満了し、全日本プロレスに入団した。
それに時期を重ねるようにして、新日本プロレスの中軸を担う社員五名が退社し、全日本プロレスに入社した。これは引き抜きなのか、それともヘッドハンティングなのか、それとも申し合わせた行動なのか、偶然の一致なのか?
そんなことは私には何もわからない。
しかし、この一連の人事異動が新日本プロレスの経営戦略に大きな打撃を与えたことだけは確かなようだ。
マスコミを含むプロレス関係者がこの大量離脱事件の事の真相を求めて右往左往する中で、いきなりアントニオ猪木さんから「黒幕」と名指しされて批判を受けたのが、この馳浩。
私はきょとんとするとともに、カチンときた。
私が首謀したわけでもなく、また意図せざるところで「おまえが黒幕だ!」と指摘されてもうろたえるばかりで答えようがない。
ましてや、私は試合の時だけ全日本プロレスに登場する期間限定レスラー。本職は衆議院議員。
全日本プロレスの経営についても、責任を共有する立場ではない。根拠のない「黒幕説」をマスコミを通じて世の中に大きく流布されてはまさしく名誉毀損。
「おいおい、言いたいことがあれば直接俺のところに来て言えばイイじゃないか。ウラも取らずに不確実な情報に基づいて一方的に攻撃するなんて、それでもプロレス界の先輩か! 万が一法的な訴えを起こすとして、その場合はあなたの側に立証責任があることぐらいわかってるんでしょうね!」
と怒りさえ渦巻いた。
しかし、ふと、怒りを鎮めて我にかえると、
「どうして俺が黒幕と呼ばれるのかな?」
と考えた。
「ん? もしかして馳浩の日頃の言動をして、黒幕と呼ばれるにふさわしい存在であるのかな?」
とも思った。そして、
「考えようによっては、こりゃおもしろい! むしろ自分から黒幕宣言してみようか! そして、黒幕の意味をもっと世の中に問うてみようか? 現代社会における黒幕の在り方をも深く掘り下げてみようか?」
と思い及んだのがこの本をまとめるに到った正直な動機だ。
天下のアントニオ猪木さんに黒幕呼ばわりされるなんて、なかなかめったにあることじゃないし。むしろ「光栄」なことなんじゃないのかな、と。
和英辞書を開くと、黒幕のことが次のように表現されている。
@BLACKCURTAIN
AWIREPULLER
BMASTERMIND
@はまさしく読んで字のごとく、黒い幕
Aは、背後で糸を引く人
Bは、首謀者
という意味だ。陰でこそこそ良からぬ密謀を計る輩(やから)、と悪い意味に取ることもできれば「人をその気にさせる裏方・引きたて投」と良い意味にも捉えることができよう。私の日頃の言動が、このどちらに属するかはケースパイケースであり、また後世の人が判断することでもある。
自らが自分を正当化して「黒幕とはこんなものです」と定義するものでもないし「どーだ、わかったかー!」と胸を張るものでもない。
だから、私は日頃政治や教育問題やプロレスや恋愛について考えていることを、自分なりの「哲学」としてまとめて世に問うことにしたわけである。
幸いにも、佐々木さんという優秀なスタッフに恵まれ、彼のナビゲートのもとに、渦巻く「脳みその中」をまとめあげることができた。
この、黒幕論こそ、混迷する現代において、日本社会に「活力」を与え、人々の心の隙間に「潤い」を与え、ぎすぎすした人間関係に油を差すものだと、私は勝手に思っている。
さて、この本をここまでお読みになった皆さんの心の中には、どんな「黒幕」が蠢(うごめ)いているのでしょうか、自問自答してみてください。
平成十四年四月 「黒幕」こと 馳浩