馳浩の聞楽に源氏物語』

華麗なる愛の物語


はじめに

 源氏好きは、源氏を語りたがるものである。この私もそのひとり。お気に入りの女性、お気に入りの場面を抜きだして解説を加えたのが、このCDブックである。

 DISC1では「源氏の愛した女性たち」と題し、朧月夜、夕顔、六条御息所を取り上げた。そして冒頭には「雨夜の品定め」を配した。

 女性の品定めというと、現代ではセクハラで訴えられてしまいそうだが、いつの世においても男性にとっての秘かな楽しみであり、また理想の女性像が詳細に描かれているのであえて採録した。

 中流の女のおもしろさや、理想の妻を語る男たちの姿は、時代を超えている。

 朧月夜は、朱雀帝と光源氏の異母兄弟にほんろうされ、加えて政略結婚に巻き込まれる女性。「愛のない結婚と愛のある不倫」にゆれる女心。

 六条御息所は、ジェラシーのかたまり。自分より若い女との浮気に走る源氏よりも、源氏の心を奪った夕顔に攻撃の刃を向けてしまう女心。また、車争いでないがしろにされた屈辱から、源氏の正妻・葵の上に取りついてしまう女心。

 DISC2では「源氏をめぐる愛の三角関係」と題し、当時においてさえタブー視された恋愛関係に揺れる女心を紹介する。

 一夫多妻、近親婚があたりまえのように繰り返されていた時代とはいえ、不義・密通の上に懐妊までさせてしまっては・・・・・。それも時の権力者に対して。とりわけ人に言えない苦しみと源氏への愛の狭間で揺れる藤壷の心中は、「瀬氏物語」の負のテーマと位置づけられよう。

 私は、作者・紫式部の構想力にも注目している。どうしてこんなに多彩な女性たちを登場させたのかを推理していくことによって、「源氏物語」の真実に迫れるかもしれないからだ。

 読者それぞれのアプローチがある。ゆがんだ愛の側面からアプローチをしてみるのもまた一興だろう。

1999年9月

馳 浩 


馳浩の著作に戻る