『闘いのゴングが聞こえているか』 プロレスの美学 男の生きざま
はじめに
サッカーくじ法案を参議院で審議しているとき、私の夢が一つ実現した。
この法律は議員立法である。ふつう政府が国会に提出する「閣法」と呼ばれる法律と国会議員が賛同者を募って提出する「議員立法」の二種類がある。サッカーくじ法案は、超党派の国会議員が組織するスポーツ振興議員連盟が内容を話し合ってまとめて提出した議員立法なのである。
この提案者の一人として私の恩師である松浪健四郎衆議院議員が名をつらね、参議院での委員会審議に答弁者の立場でやってきたのである。私は質問者として師と議論した。
松浪先生には高校生の時代からレスリングの指導を受け、専修大学にスカウトしていただきオリンピック代表となるまでコーチをしていただいた。直接的なスポーツの指導ばかりではなく、「本を書け」「異色となれ」「発想を豊かにしろ」と人生の指針をも折りにふれてアドバイスしていただいた。もっと私的に言えば、お見合いの相手(妻の高見恭子)をも紹介してもらったり、教員からプロレスラーに転向するときやプロレスラーから参議院議員選挙に立候補するときも決定的な相談相手になってもらった。いわば師と教え子という関係でこれまでつき合っていただいたのが、国会という権威のある場で質問者と答弁者という対決する立場になることができたことが望外の喜びなのである。それも、二人とも生涯のテーマとして取り組んでいるスポーツ振興について議論するのであるから、まさしく運命のイタズラとも言えよう。この運命に深く感謝したい。
私は一つの負い目を持っている。自分はスポーツを利用して、踏み台として立身出世してきた男ではないか、という負い目である。
大学進学も、星稜高校への就職も、プロレスラーとしての活動も、選挙のときでさえも、私にとって「スポーツマン」という実績と肩書きが優位に働いたのは事実である。このことはずっと心の中にしこりとなって沈んでいる。文武両道という言葉で好意的に解釈することもできようが、私はそれでよいのだろうかといつも疑問に思っている。
私は自分に対して批判的な性格である。これでよいのかといつも問い掛けている。なかなか答えは出てこない。唯一こうして文章を書き続け、本を出版して私の考え方を万人に対して明らかにし、世の中にある私に対する批判の声に耳をかたむけようとしている。松浪先生が「本を書け」と力説する真意も、思い上がることなく向上心を持ち続けよということなのではないかと理解している。
本書では、お気楽で、まじめで、地味で、派手で、カッとなりやすい私の性格をいくつかのエピソードをまじえながら紹介している。「不謹慎だ」と怒られそうな話もあえて包み隠さず書いた。ありのままの私である。私の心の中にはいつも試合開始のゴングが鳴り響いている。ゴングが鳴る準備もいつも整えている。
もちろんいつか鳴るであろう人生の終了を告げるゴングも聞こえている。
1998年2月
馳 浩
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